愛媛県での「わいせつ図画頒布」事件に関連しての
「全国同人誌即売会連絡会」の見解

7月2日、愛媛県在住のイラストレーターが「わいせつ図画頒布」容疑で取り調べを受け、引き続き、当該の自費出版本を印刷していた岡山の印刷会社に家宅捜索が入り、専門書店数社が事情聴取を受けました。8月23日にこのイラストレーターは逮捕され、9月12日に罰金30万円の略式命令を受け、同日釈放されました。

今回の事件を受け、コミックマーケット72開催直前に「日本同人誌印刷業組合」のサイトに掲載された「成年マーク」に関する告知内容や、一部の印刷会社が行った作品に対する修正内容について、サークル側から相当数に及ぶ苦情や問い合わせが各即売会にありました。

依然、今回の件に関連して、「わいせつ図画」、「青少年健全育成条例」、「児童ポルノ法」の理解不足に起因した誤解や流言による混乱が続いているため、「全国同人誌即売会連絡会」としての見解をここにお伝えすることとしました。

 

まず、今回の事件は「わいせつ図画頒布」の容疑によるものであることを念頭におく必要があります。

「わいせつ図画頒布」は「わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。」とした「刑法175条」に抵触します。

過去の判例を考慮すると、「現状」では「詳細で生々しい体様での性器又は性行為描写」はこれに該当すると考えられ、「松文館事件」の判決理由に基づいた場合、「網掛け等による網透けて見える局部修正」についても同様な解釈がなされるようです。なお、同人誌において同法に違反した場合は作者、印刷所、即売会主催者ないしは同人誌専門書店、会場、その他これに関わった全ての業者に幇助罪が適用される可能性があります。

「刑法175条」には具体的な「わいせつ図画」に関する基準は一切記載されていません。
しかし、この法例に関して、「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。」という判例はあります。
一方で、他の判例では、社会状況の変化や、作品性、思想性、芸術性等をわいせつ性の評価の要素にするとも述べられており、「わいせつ図画」の解釈については様々な要因が絡み合い、一様なものとは言いがたいようです。現在刊行されている「春画集」における無修正の性器描写等はその一例になるかと思われます。

「成年マーク」は地方自治体の定める「青少年健全育成条例」に対応しての自主規制として使われているものです。「わいせつ」とは別個のルール(条例)を意識したものであり、今回の事件とは直接の関わりはありません。
地方自治体(都道府県と一部市町村)は、それぞれの条例の基準に従い、「有害」あるいは「不健全」な表現物を指定しています。東京都条例を例に挙げると、「青少年に対し、著しく性的感情を刺激し(※)、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するもの…」といった内容の表現物が「不健全」として指定されえます。
「不健全」と指定された表現物を青少年(18歳未満)に販売することは禁止されますし、区分陳列や包装するなどの義務が課せられ、これらに違反すると警告が行われ、それでも是正措置が講じられないと刑事罰を課せられることになります。
この場合、処罰の対象は販売・頒布した者(同人誌で言えば売り子、サークル、書店)になり、作家、印刷所、製作者は罪に問われることはありません。
「成年マーク」は、地方自治体から「有害」あるいは「不健全」と指定されているか否かにかかわらず、青少年健全育成条例の趣旨に鑑みて、青少年(18歳未満)には相応しくないと思われる表現物について、発行者自身の判断により、「青少年に頒布・販売するには相応しくない」ことを自主的に明示するために付されているものです。
なお、「成年マーク」の形状、色彩に関する決まりは存在しません。

「わいせつ図画」とは違い、「有害」、「不健全」と指定された表現物、成年マークを付した表現物を青少年以外の者(18歳以上)に販売することは自由です。
反面、「わいせつ図画」は、相手方が大人であろうと青少年(18歳未満)であろうと販売・頒布することは許されませんし、「わいせつ図画」に成年マークをつけたとしても販売を許されることはありませんし、処罰を免れることもありません。

(※)「わいせつ」よりは、弱い性的刺激を意味します。

 

7月初旬の段階でなされた「日本同人誌印刷業組合」の「成年マーク」に特化した自主規制強化は、今回の事件があくまで「わいせつ図画頒布」容疑である以上、「青少年健全育成条例」とは無関係であり、その点において対応に誤りがあったと考えます。
さらに個々のサークルが自主的に「成年マーク」を表記した場合、自ら18歳未満への販売・頒布は適切ではないと判断したわけですから、有害指定を受けていなくても18歳未満への販売・頒布しないよう努力する責任が生じます。その意味でも「成年マーク」に関する判断は軽軽なものであってはならないのです。

印刷会社側から、成人指定ではない青年誌、場合によっては少年誌に掲載されていても問題のないものと考えられる同人誌に「成年マーク」の表示を求めたり、既刊には全て「成年マーク」のシールを貼るよう半ば強制的な通達をされたという苦情をサークル側から受けていますが、これは発行者の意志を無視した行為であり、本来「誰」が「どこまでの表現」に対して規制を行うのかという問題も含んだ上で、自主規制の範疇を逸脱していると言わざるを得ません。

 

「児童ポルノ法」は実在する18歳未満の児童(男女を問わず)を対象としたものであり、架空のキャラクターによるマンガ、アニメ、ゲーム、小説等は、現状では「児童ポルノ法」の規制対象になっていません。
このため、これらメディアにおける18歳未満の架空キャラクターを用いたエロティシズム、バイオレンス表現は罪を問われることはありません。(ただし、実在する児童に対する猥褻行為、虐待等の人権侵害行為をモデルとした模写(イラスト、マンガを含む)は「児童ポルノ法」により規制されます)。

これについても、登場人物の設定が「高校生」である等、年齢が18歳未満であることに訂正を求めたり、ランドセルに対する黒ベタ修正や、制服を着ていることを問題視したりといった、「児童ポルノ法」の内容を理解していない事例が後を絶ちませんでした。

これらの法的には問題とならない表現に関して、印刷会社側から修正等を求めた場合、あるいは作者に無断で修正を施した場合、作者に対する「表現の自由」「著作権」侵害となることを憂慮します。

去る5月19日に開催された「同人誌と表現を考えるシンポジウム」ではマンガ表現におけるエロティシズムやバイオレンス等について活発な議論が交わされました。しかし、今回の一連の騒動を振り返ると、残念ながら我々はまだまだ勉強不足だったと言わざるを得ません。

今回の事件をひとつのきっかけにして、「わいせつ図画」・「青少年健全育成条例」・「児童ポルノ法」を含む様々な問題について、主催者、サークル、印刷会社、専門書店が各々の立場を踏まえつつ、これからも同人界の様々な問題について勉強を重ねていく必要があるようです。

なお、「全国同人誌即売会連絡会」では定期的にこれら諸問題に関する勉強会を行っています。より多くの即売会主催者の参加をお待ちしています。

全国同人誌即売会連絡会事務局

関連リンク

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